移民をどう考えるか : グローバルに学ぶ入門書
移民をどう考えるか
カリド・コーザー 著
是川夕 監訳
平井和也 訳
https://gyazo.com/5cbf37cf3e7e0b350fe2218e90415a4a
欧米で外国人排斥運動が高まり、日本でも外国人労働者が増加し、いま移民は論争的なテーマとなっている。本書では、専門用語を説明して最新の研究を示し、特定の地域に偏らずグローバルな動向を意識し、そしてバランスのとれた視点を大切にすることで、移民をきちんと考えるための「糧」をお届けする。定評ある入門書、待望の邦訳!
https://gyazo.com/0e601dce6b19eff4b55a785375c1ce07
International Migration
目次
第1章 なぜ移民が問題なのか
国際移民の歴史の概略
国際移民の諸相と力学
国際移民のもたらす好機
国際移民のもたらす諸課題
国際移民に関するとても短いイントロダクション
第2章 移民とは誰のことなのか
移民の分類
統計の意味とは?
帰還移民
移民から市民へ
移民、ディアスポラ、トランスナショナルコミュニティ
第3章 移民とグローバリゼーション
格差の拡大
世界の雇用危機
労働市場の階層化
通信・輸送革命
移住ネットワーク
新しい権利と資格
移住産業
国際移民を説明する
第4章 移民と開発
送 金
ディアスポラ
帰 還
頭脳流出
第5章 非正規移民
非正規移民とは?
非正規移民の数
非正規移民の課題
人身取引と移民の密航
第6章 難民と庇護希求者
国際的な難民制度
難民の世界的な分布
難民の発生の原因
難民の発生がもたらす帰結
しっかりとした解決策
先進国における庇護
第7章 社会における移民
移民受け入れの経済的な効果
第二・第三世代
移民と政治
人口減少を緩和する
社会と文化を豊かにする
第8章 国際移住の未来
アジアからの国際移住
国内移住
気候変動
一時的な移住
非正規移民の規制から管理へ
国際的な難民制度の改革
移民を尊重する
より理性的な議論のために
文献案内
監訳者解説
人名索引
事項索引
著者・訳者紹介
移民の歴史は、人類の起源、つまり原人(ホモ・エレクトゥス)と現生人類(ホモ・サピエンス)が紀元前約一五〇万年から五〇〇〇年の間に東部アフリカ大地溝帯から最初はヨーロッパへ、そして後に他の大陸へと広がっていったことに端を発している。古代の世界においても、ギリシャの植民地建設とローマ帝国の拡張は人々の移住に依存していたし、ヨーロッパ以外の地域でも、大規模な人の移動がメソポタミア、インカ、インダス、周(中国)の各帝国の成立や繁栄と関連していた。人類の歴史の始めに見られたその他の重要な人口移動には、バイキングや聖地を目指す十字軍戦士のそれが含まれている。
移民の歴史家であるロビン・コーエンによると、近年になっても大規模な移住の時代やそれに関連する出来事を見ることができるという。おそらく十八世紀から十九世紀にかけて見られた移民に関する最も大きな出来事は、奴隷の強制的な移住だろう。推定一二〇〇万人の人々が主に西アフリカから新世界〔アメリカ大陸〕に強制的に移住させられ、さらにこれよりは数は少ないものの、インド洋と地中海を渡って移住を強いられた人たちもいる。規模以外の面でも、この出来事が非常に重要な意味を持っている理由の一つとして、それが今でも奴隷の子孫、とりわけアフリカ系アメリカ人の間でその痕跡が残っているということが挙げられる。この奴隷制が崩壊した後には、ヨーロッパ列強の植民地プランテーション(大農園)経営を続けるために数多くの年季奉公労働者が、中国、インド、日本から――インドだけからでも一五〇万人にのぼる――ほかの土地に移住している。
ヨーロッパ諸国の勢力の拡大は、ヨーロッパからの自発的移住、とりわけ植民地、領地、および南北アメリカへの大規模な移住を引き起こした。イギリス、オランダ、スペイン、フランスといった重商主義国はいずれも労働者や小作農民、反体制派の兵士、罪人、孤児だけでなく、あらゆる種類の自国民の国外への定住を推し進めた。こうしたヨーロッパの勢力拡大に伴う移住は、十九世紀末に始まった反植民地運動の高まりと共に大部分が終わりを迎え、実際、それから約五〇年の間に、フランスに帰還するいわゆるピエ・ノワール[訳注3]のような、ヨーロッパへ帰還する人々の大規模な逆流現象が起こった。
その後見られた国際移住が活発な時代は、アメリカ合衆国の工業国としての台頭によって特徴づけられるものであった。アイルランドの飢饉を逃れようという人々は言うまでもなく、北欧、南欧および東欧の経済的後進地域や抑圧的な政治体制から逃れようとする何百万人もの労働者たちが、一八五〇年代から一九三〇年代の大恐慌時代にかけてアメリカに移住したのだった。実際、約一二〇〇万人もの移民がニューヨーク港のエリス島に上陸して、入国審査を受けた。
さらに第二次世界大戦後には、新たな大規模な移民の動きがあった。この時代には、ヨーロッパ、北米、オーストラリアを中心に戦後の好景気を支えるための労働力が必要とされていた。この時代、多くのトルコ人が移住労働者としてドイツに移住したし、たとえばフランスやベルギーには北アフリカの人々が移住した。また、同時期に、約百万人のイギリス人がいわゆる「十ポンドの新入植者[訳注4]」としてオーストラリアに移住した。(以下、本文つづく)